2009年06月18日

少女椿

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少女椿
丸尾 末広
青林工芸舎 2003-10

by G-Tools , 2009/06/18

英国の往年のプログレッシブ・ロックバンド、
ジェネシスの傑作アルバム『ナーサリー・クライム』の邦題、
『怪奇骨董音楽箱』…その個性的なネーミングの風情にも似た、
不気味さの中に秘められた美の粋を極めたような作品です。

読んでいるとお化け屋敷に入ったような感覚になりつつも、
時折ひょうきんな描写(突然タッチがコミカルになったり)もあり、
グロテスクだけど笑える、というシーンも割と出てきます。

この漫画の主人公、みどりちゃんは殆ど人形のようです。
可愛らしい子ですが、身体が蝋で出来ているかのような雰囲気です。
それでも口にする言葉は子供らしくて、
他愛ない一言二言の台詞が殆どだったりする。

彼女は筋肉少女帯の『断罪!断罪!また断罪!!』の最終曲、
「何処へでも行ける切手」に出てくる少女のモデルになり、
エヴァンゲリオンの綾波レイの設定にも影響を与えたとか…。
あの包帯まみれの造形は、ワンダー正光に殺される鞭棄の影響か。

しかし、その物語中盤の登場ながら主要なキャラクターとなる、
謎の魔術師・ワンダー正光の存在感は本当にユニークです。
結局こいつが何者なのか最後までわかりませんし、
次々披露する術がどういう仕掛けかも全く不明ながら、
このバットマンかサリーちゃんのパパか…といった、
実におかしな髪型をした小男のマジシャンは、
みどりちゃんにとってはさながら化け物の巣窟である小屋では
唯一温もりを感じる存在に思えたのか、
それとも寂しさか幼さか、はたまた女の子の気まぐれか、
とにかく出会って間もなくワンダーと愛人関係を結ぶことになる。

ただ、僕がこの漫画を読んでいて一番気味が悪かったのは、
おどろおどろしさに充ち満ちたシーンより何より、
手許にある青林工藝舎刊のバージョンでは144ページから始まる、
ワンダーをみどりちゃんがあてもなく探し回る場面でした。

漫然と読んでいたところで、ふとページを後戻りする。
あれ?このコマさっきもあったよな…んん??何だこりゃ…。

実際に読んでみるとわかるのですが
みどりちゃんがうろうろしているコマとコマの間に、
隧道、そして嚔をする行商の男の姿…というほぼ同じ絵のコマが、
ページごとに位置や順番をずらして巧妙に挿入されている。

これが実に気持ちが悪かった。
ある意味、見た目エグイ絵よりも不安定な気分になるシーンです。
そして…その迷路を打ち破るように、みどりの前に幻覚が現れる。

最後は……え、これで終わり?とも思いますが…。
ヴァルター・ベンヤミン的な比喩を転用して、
その世界にはまった状態を「時間を麻薬に変えている」とするなら、
本を置いてしばらくは現実の感覚までがあやふやであり、
しかし物語からは既に放り出されていて…何とも落ち着きません。

釈然としないものの、初めから読み返してみたところで、
結局最後に行き着くのは福助の「御免なさひまし!」です。

一つ気がついたことと言えば…「少女椿」の面白いことには、
これだけ背景も何もかも細部に渡って描き込まれているのに、
みどりちゃんも含め、登場人物の「影」が殆ど描かれてないのです。
仮にそれが意図的なものだとすれば…怖い漫画です。


【参考】丸尾末広 - Wikipedia


posted by garni at 04:26 | Comment(0) | TrackBack(0) | 漫画/アニメ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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