2009年06月13日

怖い絵3

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怖い絵3
中野京子
朝日出版社 2009-05-28

by G-Tools , 2009/06/13


「怖い絵」シリーズ最終巻。(残念…)
これまで通り、いわゆるホラー映画的な、
鑑賞する人が生理的に嫌悪感を抱くようなものを
強く取り上げているわけではなく、人の情念、精神の深淵、
残酷さ…といったものにまつわる「怖さ」を主題としており、
その作品に関する時代背景などを丁寧に解説してくれる内容です。

シリーズ通してなのですが、
まず初めに本文で語られる作品の縮小版が見開きで載っていて、
それからページを遡って何度も絵を確認しては文章を読む、
という格好になりますが…あまり本を開いて痛めたくないな、
ということで、本書に出てきた20作品の画像のリンクを以下に。

作品1 ボッティチェリ『ヴィーナスの誕生』
作品2 レーピン『皇女ソフィア』
作品3 伝レーニ『ベアトリーチェ・チェンチ』
作品4 ヨルダーンス『豆の王様』
作品5 ルーベンス『メドゥーサの首』
作品6 シーレ『死と乙女』
作品7 伝ブリューゲル『イカロスの墜落』
作品8 ベラスケス『フェリペ・プロスペロ王子』
作品9 ミケランジェロ『聖家族』
作品10 ドラクロワ『怒れるメディア』
作品11 ゴヤ『マドリッド、1808年5月3日』
作品12 レッドグレイヴ『かわいそうな先生』
作品13 レオナルド・ダ・ヴィンチ『聖アンナと聖母子』
作品14 フーケ『ムーランの聖母子』
作品15 ベックリン『ケンタウロスの闘い』
作品16 ホガース『ジン横丁』
作品17 ゲインズバラ 『アンドリューズ夫妻』
作品18 アミゴーニ『ファリネッリと友人たち』
作品19 アンソール『仮面にかこまれた自画像』
作品20 フュースリ『夢魔』

今回は女性、特に儚い運命を辿った女性の絵が多めです。
ヴィーナスに始まり、ベアトリ―チェ・チェンチ、
シーレの恋人ヴァリ、王女メディア、かわいそうなガヴァネス、
アニエス・ソレル、そしてカステッリーニ…実に7つの作品に及ぶ。
ソフィアやメドゥーサはごっついので割愛…。

その中でも印象に残るのはやはりベアトリ―チェの絵。
本書ではこの絵がレーニ作でないことや、
描かれた女性がベアトリ―チェではない可能性を指摘しつつも、
一方、白いターバンを巻いたイタリアの少女は、その佇まい全体が強烈に悲劇を要求している。彼女はやはり──たとえ本物ではなかったとしても──ベアトリ―チェなのだ。
と締めくくっている。
悲しく、気高く、美しい女性の最後の姿であって欲しい、
そう激しく思わせてくれる素晴らしい絵だからこそ、
スタンダールもこの絵の女性に恋をしたのかもしれません。

印象深かった絵のもうひとつは、フェリペ・プロスペロ王子。
死期の近い幼い王子と偉大なる画家の視線がシンクロし、
この絵になったのかと思うと…何とも言葉にならない気分になり、
その静寂に満ちた目に、胸を締めつけられた。

そういえば、キリスト教で天使は幼児の姿として度々描かれるが、
それは生まれてすぐに亡くなった子供たちは、
天使となって神に仕えている、といわれているからだそうだ。

これまで、ともすれば絵画に触れる際、
名画といわれれば特に細かいことを考えずに鑑賞していたのを、
その作品の描かれた国、時代、文化、人々の生活様式、
神話、宗教、そして画家の人間性などを解説してもらうことで、
絵の中に込められているエッセンスをより深く楽しみ、
知識を広げさせてくれたことに感謝したいです。

自分自身「怖い絵」シリーズを通じて、
「絵の学習」とは描く勉強には限らないもので、
鑑賞する力を磨き、文化・歴史を学ぶことでもある、
ということに気づかせてもらいました。

どの巻からでも入れる、面白い絵の見方を教えてくれる本です。


【著者、中野京子さんのブログ】「花つむひとの部屋」
posted by garni at 02:28 | Comment(0) | TrackBack(0) | 差異 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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