2009年07月03日

ママケーキ

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ORANGE
電気グルーヴ ピエール瀧 石野卓球
キューンレコード 1996-03-01
曲名リスト
  1. ママケーキ
  2. 誰だ!
  3. キラーポマト
  4. ヴィヴァ!アジア丸出し
  5. なんとも言えないわびしい気持ちになったことはあるかい?
  6. ポパイポパイ
  7. 反復横飛び
  8. スコーピオン
  9. スマイルレス・スマイル
  10. Tシャツで雪まつり~インクルーディング 燃えよドラゴンのテーマ

by G-Tools , 2009/07/03

電気グルーヴの「名づける」ことに対するある種の頓着のなさは、
彼らの作品のあらゆる部分で垣間見られるが、
例えばソニーのCDの帯の上部にある「ジャンル」、
電気のそれは常に独特のカテゴライズがされていて、
このアルバムでは「フォーク」となっている。

もちろんフォークミュージックが入っているわけではないけど、
確かに本作の詞の部分における力の入れようは、
フォークソングに通じるものがあるかもしれない。

サウンドは前作『ドラゴン』よりシンプルになっていて、
発売当時のDTM関連の雑誌のインタビュー上でも、
自己満足的な音作りを控えたという趣旨の発言や、
幾分モチベーションの低下を感じさせる言葉もあったが、
個人的には長く聴けるアルバムになっている。

「文藝別冊 '90年代J文学マップ」の中で、
ミュージシャンとして挙がった電気グルーヴの名前は、
作家としての町田康、鷺沢萌、漫画家ではねこぢる、
山田花子らがいる『脱力フリーター系ゾーン』にある。

他の小説家や漫画家、そしてミュージシャン同様、
彼らもこうして配置されることには不本意だろうけれど、
一昔前の、あの頃のサブカルチャーの流れを思い出すと、
まあ納得できなくもないか…といった感がある。

「ママケーキ」を最初に聴いた時、「イヤな歌だな」と思った。
この曲もまた、上記の「サブカルチャー地図」における、
彼らの位置づけの根拠の一部である風に思えるが、
例えば「N.O.」が自嘲気味に、しかし楽観的に、
「ブラブラ生きている」ことを歌っていたのに対し、
「ママケーキ」の詞においては、確かに同様に、
ある若者の怠惰な暮らしぶりが語られてはいるが、
彼ら特有のおふざけの表皮の裏に、
虚無的な生き方への強烈な皮肉が内在している。

見方を変えれば、「N.O.」の頃はまだ余裕があったが、
次第にどん詰まり状態に陥り「ママケーキ」に至った、
という風に繋げて捉えると、詞はより現実味を帯びてくる。
「ついてねえ」のは「自分に運がない」からで、
その苛立ちは非常に自己中心的であるが、
男に現状を変えようとする具体的な努力はみられない。
しかし、その人間的で生々しい呻きにどこか共感してしまう。

僕は「M氏」を思い出す。
10数年前、知人を通じて知り合った2歳年上の彼は、
普段はあまり目立たず、口数も少ない人間だった。

M氏はバイト代の殆どをレコード、CD収集に費やしていた。
特定のジャンルにしか興味を示さないということはなく、
関心の枝はあちらこちらに伸びていたようで、
僕が細野晴臣のファンだと言うと、
「これ聴いてみなよ」とマーティン・デニーのベスト盤をくれた。

高校を出る時、「俺はプーでいい」と彼は言い、
進学も就活もしなかったという。
知人によれば別に貧乏というわけではないし、
成績も真ん中より上だったとのことだ。
それでも「普通の人生はつまんねー」と言っていた。

数年後、僕は大学生活を送っていた。
一年の夏休み前のテストの時期、
試験も終わって携帯の電源を入れ直してみると、
唐突にM氏からの伝言が溢れていたのを覚えている。

「カラオケ行こうよカラオケ」
「今度さ、みんなで飲み行こうよ」
「ペイジ・プラントのチケット取れそうなんだけど行く?」
「ねー、ちょっと会わない?」
「シカトしないでよ」

会うと、彼は引きつったような笑顔で音楽の話、
ゲームの話、漫画の話などをし、しばらくしてこう言う。
「ねえ、gar…悪いんだけど、ちょっと貸してくれる?」
「何ですか?…お金ですか」
「うん、少しで良いんだよ、本当、少し」
「いくら?」
「うん…あのね、、3万くらい…なんだけど」
「えっ、いや…まあ、ありますけど、えーっ…」
「絶対、バイトの給料入ったらすぐ返すから、本当に」
「じゃあ、まあ…わかりましたけど」
「ありがとう。ホントにごめん。すいません」
「そんな…じゃあ、3万ですね」
「うん。確かに、ありがとう。助かった」
今どんな生活をしているのか、という話は、
その時M氏からは聞けなかった。

彼と会ってしばらくが経ち、連絡は明らかに減った。
気は引けるものの、こちらから催促をしても、
今は纏まった額がないから、キチンと用意出来た時に、
などなど言われ、結局はぐらかされたままだった。
知人も既にM氏と疎遠になっていたので、
結局お金は諦め、連絡もそれっきり途絶えた。

…そんな個人的な話を差し引いても、
この歌の妙なリアルさは現在も色褪せない。
この社会の混沌がそうさせないのかもしれない。

久々にiPodに入れた『オレンジ』を通して聴く。
相変わらず、まりんの「ちゅっちゅちゅるっちゅっ」、
というスキャットは突然切れ、ディレイだけが取り残され、
曲は「誰だ!」へと移っていった。
posted by garni at 17:33 | Comment(0) | TrackBack(0) | Techno/Dance | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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